【考察・解説】綿矢りさ「ひらいて」|『過剰の意識』、手紙の意図、結末の意味等

2022年10月21日

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Yuu
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こんにちは!Yuuです♪

今回は、以前記事で紹介した綿矢りささんの「ひらいて」の解説、考察を話していきます!

以前の記事では、作品情報やあらすじ、この作品の魅力についてまとめているので、まだ作品を読んでいない…!という方や内容忘れかけてる…!という方はぜひこちらからご覧ください♪

この記事ではネタバレも含めた感想や考察をしっかりと書いていくので、まだ作品を読んでいない方は先に読むことをおすすめします!

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解説

中井正一『過剰の意識』

『過剰の意識』は作品の序盤部分で、国語の授業の時間にたとえが指名され、朗読する文章です。

この文章は実際にあるもので、全文を青空文庫で読むことができます。作中ではほんの一部の切り抜きになっているので、ぜひ一度全文読んでみてくださいね。

まず、作者の中井正一さんですが、1900年生まれの美学者、評論家、社会運動家です。独自の「中居美学」という美学理論を展開したそうです。

『過剰の意識』以外の中井正一さんの他の文章も読んでみたのですが、私にとってはかなり難解でした…。

『過剰の意識』を読んでみてわかったのですが、素敵な言葉遣いで、『ひらいて』の言葉の流れに似ているような気がしました。というか、内容が完全に『ひらいて』を導くような内容になっています。

足で立ち、手でものをもっている私たち自身を、自分たちは、はっきり知りつくしているだろうか。

中井正一『過剰の意識』

これは、『ひらいて』の作中でたとえが読み始める1文前の部分です。ここを読んだとき、木村愛を思い出しました。

作中では「表面と内面が完全に分離している、嘘をついている」とたとえと美雪の両方に言われてしまった愛。愛は、自身の気持ちを全然知らなかった人物として描かれていました。

もしかしたら、綿矢さんは『過剰の意識』をもともと知っていて、オマージュのような形をとって『ひらいて』という作品にしたのかもしれませんね。

『過剰の意識』中の他の部分でも、愛だけでなく、たとえや美雪を想起させるような言葉がたくさんあるように思ったので、皆さんもぜひ探してみてください。

にしてもこの文章、本当に高校の国語の教科書に載ってたらビビります。難しすぎる。というか、この文章でテスト作ろうと思っても作れないと思います…(笑)

でも自分を見直すとか、考えさせるという面で言ったらとても面白い作品だと思ったので、多感な時期にこの作品に出会えていたら、何か届くものがあるんじゃないかなと思いました。教師にすごい力量が必要そう😅

谷崎潤一郎『春琴抄』

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続いては、『春琴抄』について解説します。

『ひらいて』では、作品終盤で、たとえが美雪のことを好きな理由のことで悩むことがあるということを愛に伝えたとき、愛は「春琴抄の逆をしようか」と持ちかけます。

『春琴抄』は、皆さんご存知谷崎潤一郎さんによる中編小説です。

9歳で視力を失った春琴という女の子がいるのですが、それを奉公人の佐助が世話を焼きそれから何やかんやある…という作品です。谷崎お馴染みのマゾヒズム的アレ。

で、きっと愛が言っているのは結末のところの話でしょう。ある日、何者かが春琴の顔に熱湯をかけ、春琴は変わり果て、佐助に顔を見せようとしません。美しい春琴だけを心に残すため、自らの目を針で刺します。佐助はその後も春琴以外の女を知ることなく尽くし続けます。

「私、たとえ君のためだったら、両目を針で突けるよ。その代わり失明しても、一生見捨てずに、そばにいてね。どう、これで美雪より私を好きになる?」

綿矢りさ『ひらいて』本文より

「逆」というのが、男女の逆なのか、立場の逆なのか、物語の流れの逆なのか、難しいところではありますが、なんとなくイメージはわかっていただけるでしょうか。

陽キャJKなのに、たとえ話に『春琴抄』持ってくるとか、愛ちゃんとんでもない子ですな。他にも作中では『サロメ』を読んでいたり聖書を読んでいたり、いろんな読み物に影響を受けていそうです。

“自分に呼びかけてくるものに対して飢えているのかもしれない(文庫本P.49)"愛にとっての読むという行為は、そのような飢えを少しでも満たすための手段だったのかもしれませんね。

「鶴」「折り鶴」の意味

愛がたとえへの気持ちを抑えるために春から折り続けていた。ラストにも愛とたとえの「でも鶴をもう、折っていなくて」「折れ」という印象的な掛け合いもありますね。

この「鶴」「折り鶴」に意味を与えると、この作品にもっと深みがだせるのではないかと、考えるわけです。ということで、簡単にではありますが、鶴に込められた意味や、イメージを紹介していきますね。

鶴は昔から、縁起物として日本人に深く愛されてきました。長寿、神様と人間をつなぐもの、夫婦円満などのイメージがあるとされています。

これを知った状態で、『ひらいて』のことを考えると、長寿以外の2つが物語にリンクできるように考えられます。

まず、神様と人間をつなぐものとしての鶴。本文中にも「折る、と、祈る、という字は似ている(P.54)」という1文が出てきます。たとえへの思いを祈ることから折ることへ転換しているのかもしれません。祈ると言えば神様。言葉遊びから連想ゲームをするようににどんどん展開していくような文章で素敵です。

そして夫婦円満。鶴は一生同じつがいに添い遂げるそうです。たとえと愛は夫婦ではありませんが、たとえのことが好き、そばにいたい、という気持ちを鶴のイメージで表しているのではないでしょうか。

感想・考察

ここからの考察は私なりの読みがかなり入ってきます。皆さんの解釈と違う場合があるかもしれませんが、その違いも作品の面白さだと思っています。

もし、別の考察などあればコメントしていってくださいね😊私も知りたいです✨

愛宛の美雪の手紙の意図

愛が美雪に、心を閉ざされてしまい、自暴自棄になってしまった後に届いた美雪からの手紙。この手紙がすごいんですよ。全文取り出して語りたいくらい。

あまり長くなるのも嫌なので、適度に、ざっくり考察します。

まず、はじめの「私はいやな人間です。」の前までですが、愛に心を閉ざしてしまった美雪も、愛と同様に自暴自棄になっています。

この、手紙序盤の部分で、愛に欠けていると評価されていた、「認めてもらいたい欲」のようなものが美雪に生まれていることが分かります。

自分の血を必要としていると思っていた蚊は、一滴も血を吸っていなかったし、誰かが落として拾ってもらいたそうに見えた光るものはゴミだった。自分が求めれていないという感覚を持ち、無気力になっているようです。

しかし、その後の手紙の内容から読み取るに単純な「認めてもらいたい欲」とは違います

美雪は誰かのために生きたいと思うようになったエピソードとともに、自分の生きる力の強さを手紙に書いています。誰か大切な人のために生きる。そのためには「誰か」に求められなければならない。その相手がであり、その感情を教えてくれたのがだったということがこの手紙では伝えたいのではないでしょうか。

美雪は、たとえには何もされたことがなく、本当は触れてほしいという気持ちをぶつけたことがありませんでした。しかし、美雪は愛に求められることで自分の「認めてもらいたい欲」のようなものの存在に気がつかせてもらい、それに感謝するのと同時に、愛を愛しく思うようになったのだと思います。

この手紙は、愛を許した、許していないとかではなく、美雪の、愛に対する感情が抑えきれなくなったから送ったものなのではないでしょうか。表面と内面が分離してしまっていながら、辛抱強くふるまい続けたいる愛のことを愛せる強さが自分にはあるし、さらに、愛に求められたいという感情を強く持っているんだ、ということをこの手紙で愛に伝えたかったんだと思います。

「お前も一緒に来い」以降

ここもかなり解釈が難しい場面だと思います。私も初めてこの作品を読んだとき、会話が意味不明でした。なんでたとえと愛ちゃんの会話成り立ってるの!?ってなりました(笑)

ここからが考察になります。

まず、たとえの「お前も一緒に来い。~」の言葉は、たとえが不器用ながらも愛に心をひらいたことの表れだと思います。来い、とは言っているものの、本当は一緒に来てほしかったんじゃないでしょうか?たとえの父親を愛が殴ったことから、愛の気持ちを信じることができるようになって心強く感じたんだと思います。

このような誘いの言葉をかけることは、普段気持ちを抑えるように生きていたたとえにとって大きなアクションでしょうね。

次の、愛の返答「でも鶴をもう、折っていなくて」。ここで先ほど解説の部分で紹介した、「鶴」「折り鶴」の意味を思い出していただきたいです。

愛はいつも、たとえのことを考えているときに鶴を折っていました。つまり、鶴をもう折っていないということは、あまりたとえに執着していないということを表していると思います。神に祈るような恋や、たとえとずっと一緒にいたいという願いで鶴を折っていたのなら、もうたとえへの強い思いが別のものに変わったと言えます。

そのため、たとえからの誘いを軽く断る、というか、自分にはついていく資格がないとして、この「でも鶴をもう、折っていなくて」という返事をしたんじゃないかなと思います。

ですが、これに対してたとえは「折れ」と言います。これってつまりついて来てほしいということではないですかね?!

本当は一緒に来てほしいと思っているのに、たとえは心をひらいて気持ちをぶつけることに慣れていません。だからこんな変な伝え方で、たとえなりの思いを愛にぶつけようとしているのではないかと解釈しています。

この解釈からすると、3人がお互いに影響を与え合って、新たな生き方を教えてもらって…という関係が本当に素敵です。

愛情や友情を超えた3人の関係性

上にも書きましたが、作品全体を通して読んでみて、この3人はお互いに何かを求め合い、与え合う関係であったと思います。この小説を読んで、ただの「恋愛小説」とは言い表したくなくなるようなものが、この作品には含まれています。

物語ラストの一部を引用します。

確かに初めは自分でも抑えきれない激情があった。しかしいま、彼らを求めてはいるが、何か違う感情へ変化している。友情とも、愛情とも呼べないなにか。受け入れてもらった。その事実が心を満たす。愛とは違うやり方で、でも確実に隙間を埋めてゆく。

綿矢りさ「ひらいて」

物語序盤では、愛にはミカという友達がいましたが、お揃いのバッグを持っていました。通じ合えない部分を持ち物でつながった気にしているというように愛は内心理解していましたが、その部分との対比になっています。

つまり、精神的なつながりを持てたということになりますね。

このような求める、受け入れるといった関係が出来上がったのは、3人がそれぞれ持つものをお互いに与え合い、教え合ったからではないでしょうか。

は、たとえには愛情と父親へのグーパンチ、美雪には求めること、求められることの必要性を。

美雪は、たとえには彼を支える深い愛情、愛には自分自身を理解させるきっかけと、他人のために生きる自分の生き方を。

たとえは、愛には本当の自分と向き合わせる言葉、美雪には苦しみを共有する空気と、強く生きる姿勢を。

ここでは簡潔にまとまるようにしましたが、言葉で表すのが難しいくらいに作中で性格も、生き方も違う3人が相互的に影響を与え合っています。

奇妙な三角関係から、恋愛や友情を超える物語が生まれてきているんですね。

私はこの関係性を見て、羨ましくなりました。

高校時代は、部活動で長い時間を共にする人がいたり、心を開いて話せる友達というものがいました。

でも、大学生になると、同じ人と長い間一緒にいることも少なくなってくるし、ただ一人にならないように馴れ合っているだけのように感じるようなことが増えました。

モノじゃなくて心から人とつながりたい。そう思っていても、なかなかできないものです。私も自分からあまり心を開く方ではないし。

やっぱりそういう面で言うと、読んでほしいのは中高生だな。大人が読んでも十分楽しめるし、若さってすごいなぁ、こんなに熱く人を好きになったこともあったなぁって感じることはできますが。

中学高校って、教室とか部活とか、狭い環境の中で人間関係を構築するじゃないですか。嫌でも同じ人が同じ環境に一定時間いなければならないし。もし「ひらいて」の舞台が大学で、クラスっていう枠がなかったら愛とたとえはこんな関係にはならなかったと思います。

中高生(特に女子)が読んだら絶対共感できるし、世界の見方も変わる気がします。共感もあるけど、多分学び、というかじ~んと来るものがあると思います。言葉では表せないけど…。

そして、何より君たち(中高生の読者さんがいれば🤭)には"向こうみずの狂気“があるんだよ!!

その若さ、熱意、本気、思い出してほしいなぁ…。と怠惰な大学生は考えるわけです。

まとめ

今回は綿矢りささんの「ひらいて」という小説について、好き勝手に解説、感想や考察を話していきました。

解説の部分では、今まで気になってはいたけれどあまり深く考えないままいた部分を、自分なりに調べ、まとめていきました。

小説は基本的にざっと読み通して物語を楽しむだけで、詳しく考えたりはしてこなかったのですが、今回の記事を書くにあたって深く知ることができて、読み方が変わったところもあったので、すごく楽しかったです😊

Yuu
Yuu
本当に自分が楽しむための記事…笑

そして、解説などもふまえて、感想や考察を語りました。

ここまでだらだらと考察など書いて来ましたが、読んで感じたことを文章にするのは本当に難しい!!

このやり取りはこういうことなんじゃないかなと思っても、それを言語化するのは本当に難しい。だいたい、基本的に人間の感情なんて言葉にできないことの方が多いですから。

とくにこの作品は読むときに、考えるな、感じろ!!と言いたいです。

ここまでこの記事を読んだ方で流石にまだ読んでないという方はいないと思いますが、もしまだ読んでいない、読んだことはあるけれど手元にない!という方は是非購入して今一度読み直してみてはいかがでしょうか?

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それでは今日はこのへんで。

Yuu
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最後まで読んでいただきありがとうございました!

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感想・考察,読書

Posted by Yuu