【人の死と再生】吉本ばなな『キッチン』紹介・あらすじ・感想ー人として生きることを学ぶー


今回は吉本ばななさんの短編集、『キッチン』を紹介します。
この記事を読んでいただくと、
- 『キッチン』がどんな作品か
- どんな魅力があるか
- どんな人に特にオススメか
などがネタバレなしで分かるようになっていますので、ぜひ最後まで読んでいただけると嬉しいです!
既に読んだことがある方はぜひコメントに感想や考察など書いていってくださいね♪
作品情報・特にオススメな人
作品名 | キッチン |
著者 | 吉本ばなな(よしもとばなな) |
ジャンル | 小説 |
収録作品 | 『キッチン』 『満月ーキッチン2』 『ムーンライト・シャドウ』 |
出版元 | 福武文庫、角川文庫、新潮文庫 |
受賞 | 『キッチン』第6回海燕新人文学賞 『ムーンライト・シャドウ』1987年に日本大学芸術学部長賞、第16回泉鏡花文学賞 |
この吉本ばななさんの短編集『キッチン』は1988年年間ベストセラー総合17位と、1989年年間ベストセラー総合2位を記録しています。また、世界で複数の言語に翻訳され、海外の人にも親しまれています。
まさに、国境と時をこえたロングベストセラーですね!
吉本ばななさんは、2003年から2015年までの間、ひらがなの「よしもとばなな」として作家としての活動をしていました。大変有名で人気のある作家さんなので、みなさんもどちらかの名前は見たことや聞いたことがあるのではないでしょうか?
吉本さんはたくさんの作品で「死」というテーマを扱っています。この短編集『キッチン』の収録作品も、身近な人の死から物語が進んでいきます。
「死」は誰もが避けられないものであるからこそ、人の心を動かすものがあり、多くの人に愛されているのでしょう。
今回は表題作の『キッチン』と、その続編にあたる『満月ーキッチン2』について主にお話していきますね。
- 落ち着いた小説が好きな人
- 小説をイメージしながら読むタイプの人
- 人の死と向き合いたい人
- 優しい雰囲気を感じたい人

あらすじ

『キッチン』
私がこの世でいちばん好きな場所は台所だと思う。
台所が好きな桜井みかげは、幼いころに両親を亡くして祖父母に育てられた女子大学生。中学生で祖父を亡くし、それからは祖母と二人で生きてきた。
ところが、先日祖母は亡くなった。涙があまり出ない悲しみにぼうっとしたまま数日過ごしていたみかげであったが、ある日、みかげの祖母行きつけの花屋でアルバイトをしていた田辺雄一というひとつ年下の青年が尋ねてくる。
雄一の「とにかく今晩、七時頃うちに来て下さい。」という言葉によりみかげは田辺家に拾われ、生活を共にしていくことになる。
たった一人の家族であった祖母を失った悲しみの中で、一風変わった雄一の母親(元父親?)のえり子や元彼の宗太郎との関わりや、周囲で起こる出来事などを通して、みかげが彼女の人生を歩んでゆく姿が描かれてゆく。
『満月ーキッチン2』
秋の終わり、えり子さんが死んだ。
みかげは、冬に入ってからその知らせを雄一の電話によって知ることになる。みかげは大学を辞め、料理研究家のアシスタントになり、秋のはじめごろに田辺家を出ていた。
えり子が亡くなったことを聞いたみかげは雄一のもとへ向かう。田辺家の台所を使い、料理をしているとえり子と雄一と過ごした記憶が戻ってくる。
みかげには伊豆出張の予定が入るが、えり子が働いていたゲイバーのチーフ、ちかちゃんから電話がくる。みかげはちかちゃんに会い、雄一が一人で旅に出たことを伝えられる。ちかちゃんは雄一が泊まる宿の地図と電話のメモをみかげに渡し、二人は別れる。
大切な人を亡くしても、時間は過ぎていく。緩やかに進んでいく時間の中でみかげと雄一はどのように生きていくのか。人の死をどのように受け止めるのか。
人生と死を優しいタッチで描く悲しくもなるが心温まる作品。最後にはカツ丼が食べたくなる。
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魅力

情景が思い浮かぶ表現力
まず1つ目の魅力は、読者に情景をイメージさせるような表現力です。
この作品の基盤となっているのは、主人公の女子大学生、みかげの語りです。みかげの視点で物語が描かれているのですが、みかげが見たもの、感じたことを読者がそのまま感じ取れるような描写がされています。
ときどき口語っぽくなる部分や、感情に任せて心の中で叫ぶような部分があるのも、みかげと読者の視点を結びつけるのに大きな効果があるんじゃないかなと思いました。みかげの等身大の大学生らしさも感じられます。
個人的に好きなのが、雄一の母親に対する呼び分けです。
みかげはえり子のことをモノローグの中で「彼女」「えり子さん」「お母さん」「ヒズ・マザー」などさまざまな呼び分けをします。
こうすることによって、えり子のちょっとした表情の違いや、みかげがどんな立場の人としてえり子のことを見ているかが分かるようになっていると思います。
あまり小説の世界をイメージしながら読むということはしてこなかったのですが、この作品は想像することでより味わいが深まるようになっていると感じました!
大切な人の死の後の精神的なハッピーエンド
今回紹介している『キッチン』『満月ーキッチン2』の両方が、人の死を起点として物語が生まれていきます。やはり、大切な人、特に家族を失うということは多くの人が悲しさなど、マイナスの感情を持つのではないでしょうか。
全体的にふんわりとした柔らかい雰囲気で物語は進んでいくのですが、どうしても、悲しみに直面し、読んでいて胸が痛むようなシーンも含まれています。
でも、この2つの作品の両方が、最後にはみかげや雄一の人生が明るい方向へ向かえるようなハッピーエンドになっていることが2つ目の魅力だと思います。
なにかいいことがあったとか、何かが解決したとかそういう物理的なハッピーエンドではなく、精神的なハッピーエンド。このラストをハッピーエンドと受け取るかは、読む人次第だと思いますが、私はハッピーエンドだと思っています。
私は、人の死というものが避けられないことであるから、それをどんなやり方でもいいから受け止めて、前に進んでいかなければならないということを教えてもらったように感じました。記事のタイトルでもあるように、人として生きることとはどんなことかを学んだような気がします。
このラストは、得意苦手が分かれるかもしれませんが、はっきりしたラストではないからこそ残る余韻に浸れると思うので私は好きです。
今後の幸せが約束されていないのが人生でも、どこかに光を見出せるようなラストになっているところが、ある種のリアリティになっていて、多くの人の心を引き付ける作品になっているんじゃないかなと思います。
「死」というテーマから見える日常
3つ目の魅力は、身近な人の死を経験したみかげから見える日常の景色です。
センチメンタルになっているときに見える景色って、いつもと同じでも少し違って見えますよね。いつもならスルーするであろうことに気付いたり、違った感情を抱いたり。
それがこの作品の場合は「死」というテーマによって起こっていることが描写されているように思います。
全体的に、描写が柔らかくて、私のイメージだとセピア色。感傷的になっているときに見える日常が想像でき、まだ身近な人を亡くした経験がない私にとっては新鮮な感覚でした。
人が死ぬ作品はたくさん触れたことがありますが、ここまでも「死」というテーマひとつで物語が進んでいくものは見たことがありませんでした。だからこそ、「死」を身近に感じたことがなかった人でも、より身近に感じるきっかけを与えてくれるような作品だと感じました。
人間が感じる感情を言葉にすることは難しいです。何とも言えない感情というものがたくさんあって、モヤモヤ。きっと、本当に大切な人を亡くしたら、いろいろな感情が混ざってうまく考えることができなくなるんじゃないかと思います。
でも、小説ならそのような経験を実際にしなくても、自分の代わりに経験して気持ちや情景を語ってくれる人がいます。その人物のおかげで私たちはそれを疑似的に経験することができます。
自分ではない人物に成り代わって経験をすることができるのが小説の良さだと思っています。
ただ進んでいく日常でも、誰かが死んだということで変わって見える部分があるということをこの小説によって経験させてもらったように考えています。そこが面白さであり、魅力だと思いました。
まとめ

今回は吉本ばななさんの『キッチン』という小説を紹介しました。
なにか大きな出来事や事件が起きるといったエンターテインメント性のある作品ではないのですが、言葉にできない味わい深さを感じることができる作品になっていると思います。
この記事を読んで少しでも興味を持っていただけたら、ぜひ『キッチン』を手にとってみてくださいね♪


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